「築地市場の豊洲移転を考えるシンポジウム」感想

掲載日「 2007/02/14 」

「築地市場の豊洲移転を考えるシンポジウム+現地見学会」

< 豊洲・現地見学会 > 参加ルポ: クリックで各記事へ。
1.「現地見学会・ご案内編」
2.「現地到着編」
3.「豊洲パノラマ編」、 
4.「六価クロム最終処分場編」
  シンポジウム聴講P1040427


今回のシンポジウムについて筆者自身の感想。

個人的には、これまで築地市場の移転をめぐる議論の場に加わったことが無かったので、会場内で見たこと聴いたことの多くが参考になった。
一般者として参加の機会を与えて下さった主催者に、まずは感謝したい。

以下、あくまで私見のみ。
 

【 シンポジウム前半のパネリスト報告について 】
 
 
1.東京ガス豊洲工場跡地の土壌汚染調査と対策の問題点

メインタイトルとは異なり、内容の3分の2以上は大阪で発生した土壌汚染のケーススタディ。

制度の不備、技術的限界、情報開示の不足、企業による不正行為、行政の対応遅れetc.、いずれも関係者を安心させるレベルでの「安全」は確保できないし、問題発生時の補償も最終的には被害者側にとって甚だ不本意な妥協の産物にしかならない。

また後述「4」と関連するが「これなら大丈夫」と保証できる基準が科学的・医学的に確立されないまま“対策”が講じられ、「(予算と工期の範囲内で)できるだけのことはしました」で通用しているのが現実。

<不明な点>
大阪の事例と豊洲を単純比較して良いのか? 何が同じで、何が違うのか?断片的には解説もあったが豊洲のイメージ全体には直結せず。そのへんを解説フォローしてくれると親切なのだが。

豊洲の場合、「労働環境」と「食料流通」の両面について考える必要がある。それぞれが汚染される可能性とそのプロセス、および予想される被害の内容、さらに被害を防ぐ適切な方法があるのか?といった点を知りたい。
 
 
2.首都直下型地震-その時豊洲新市場に何が起るか災害地質学から見た豊洲市場の懸念材料

地震そのものは「確実に起きると考えるのが学会の常識」。

発生後、短期的には橋梁もトンネルも使用不能または使用禁止となる(類例:阪神大震災時のポートアイランド)。周囲と陸続きでない豊洲は交通途絶し、物資は搬入も搬出もできない。このため災害時には首都圏向け食料の緊急供給という役割を果せなくなる。

長期的には、地震による地盤の液状化で土壌が再汚染され、この情報が伝えられて豊洲への食料品の入荷が忌避され市場機能を失う。

<不明な点>
特になし。今回の報告のなかで最も論旨明快でわかりやすかった。
 
 
3.東京ガス豊洲工場跡地で検出された有毒物質の人体影響

タイトルからは誤解しやすいが、豊洲での健康被害そのものは今のところ報告されていない。あくまでも豊洲で見つかった物質が“仮に”人体を汚染したらどうなるか、という話。食品別にも、牡蠣の汚染濃縮などで恐ろしい数字が次々と紹介される。

<不明な点>
上記の「1」と同じだが、豊洲における「労働環境」および「食品流通」、さらに人体影響の面から「汚染食品の摂取」と、それぞれの具体的な汚染のシナリオと被害予測について言及が無い。
一般的な知識としては参考になるが、豊洲での具体的な危険についてイメージが描けないため説得力に欠ける。

極端な話、このままでは「どんなに地面が汚染されていても、人間はゴム長靴を履いていれば安全だし魚は地面に落とさなければ安全」という理屈も通ってしまう。
 
 
4.東京都心部における土壌汚染対策の現状と問題点:

現状、おおざっぱに見て「危険度の順ではなく、地価や開発利益の高い順に整備している」という経済優先の対応であり、健康被害を防ぐための本道から外れている。

また、これは翌日の見学会で聞いた話だが汚染土壌の処理基準において、「ある物質が1000ppm以上なら搬出除去、それ未満なら現地処理」といった規定には実のところ明確な科学的・医学的な根拠のある数字は存在せず、「とりあえず1000という数字ならキリが良いから、これを基準に」といった素人考えによるでたらめな区分がまかり通っている。

<不明な点>
特になし。豊洲だけでなく東京全体の背景についても知っておけば参考になって良い。

※これら以外に、もともとのプログラムでは「築地市場の豊洲移転問題を考える」というテーマで市場を考える会代表(卸業者)が話す予定だったらしいが当日のプログラムからは削除されていた。
 
 
【 後半の質疑応答について 】
 
 
◆全体の雰囲気:

予想通りと言うべきか、前半のパネリスト報告の内容を踏まえた討議よりも単に移転反対派の士気高揚を期待する発言が多く、これを主催者側が規制できていない点が気になった。

これではやはり、多くのジャーナリストの目には後半部分が「ただの反対派の決起集会」としか見えないだろう。シンポジウム自体の“社会的な説得力”を著しく損なう結果であり、たいへん残念なことだと思う。

ジャーナリストならずとも、一般人の立場から下記のような感想(特に後半部分)が出てくるのは仕方がない。

→「Joke of Drunks」様:
http://j-drunks.spaces.live.com/Blog/cns!EBB4BB4CB1AB4DCD!3235.entry
  
 
◆議事運営:

司会席から「何かご意見ありませんか?」と発言を募っていたが、今回の来場者層が必ずしも議論に慣れた専門家ばかりでない点を考慮して、コーディネーターには相当の“親切な配慮”が欲しかった。

1.まず討議の基本方針を明らかにし、発言ルールを設定する。
2.個々の発言趣旨を整理しつつ全体の進行管理を行う。
3.最後にパネリストによる総括をまとめて終了する。

・・・といったポイントがあると思うが、いずれも不十分だったように思う。

個々の発言に制限時間を設けておらず、論旨を無視した「とにかく今日、これだけは言わせてくれ」的な発言も好き放題に許され、内容不明瞭で冗長な質問(単なる主張?)があってもコーディネーターは趣旨を整理しないままパネリストに「先生、どうですか?」と回答を求めるなど・・・。
また終了後は記者会見だったらしいが、その前に参加者への総括は???

これらの点でも、コーディネーターの見識とシンポジウムの品位が問われる。
 
 
◆少数意見(=移転賛成派)の扱い:

司会をつとめるコーディネーターが、会場内に向けて「行政の側や移転賛成の立場から何かご意見はありませんか?」と繰り返し問いかける場面があったのだが。

主催者側から見て“特に意見を聞きたい対象者”があり、なおかつ今回のようにその特定の対象者は参加しないだろうと容易に予測できる場合、その対象者をあらかじめ呼んで、その立場から発言するよう手配しておくことが望ましい。

なお、その対象者が他の多数派である参加者たちから“吊るし上げ”を喰わず冷静に発言・議論できるよう配慮するのも主催者のつとめであるが、今回の会場内の雰囲気やコーディネーターの様子を見るかぎり、そういった安心感があるとは・・・うーむ(汗)。

ある発言者が環境問題の視点を無視して組合交渉の舞台裏を縷々説明し、今後一層の支援を!と演説をぶつや、周囲の参加者はブーイングどころか拍手して、これをコーディネーターは全く規制しない・・・という状態では、いったい誰がこの会場内で反対意見や少数意見を尊重してくれるだろうか。

これでは、主催者側は“移転賛成派の意見を聞く準備がある”とは言えない。
“来るのは自由だけど、袋叩きにされても知らないよ”として移転賛成派を事実上排除していると見られても仕方がないし、学術団体が主催する「シンポジウム」としては恥ずかしい。

蛇足ながら、今回のコーディネーターは痴漢冤罪事件を扱った著書で有名なジャーナリストであり、“周囲から悪玉と決め付けられた側”の発言権をいかに尊重するかについては極めて思慮深い人物!とお見受けしているのだけど・・・☆
 
 
以上、特に後半については苦言を呈する感想となり申し訳ないが、今後も同じ主催者によって継続的な取り組みがあるなら、反省点をふまえて改善をはかり、回を追うごとに内容充実・品位向上していくことを期待したい。

筆者の誤解や不適切な要約など、お気づきの点があれば恐縮ながらメールでご指摘をいただきたい。(了)

※ 追記: 「市場を考える会」のブログはこちら
シンポジウム直後の2月13日、東京都知事から中央区長へ「築地市場移転について」と題する回答書が提出された。
これに先立つ中央区からの質問書はこちら
さらに、
「築地市場移転に断固反対する会」の活動は終了し、「新しい築地をつくる会」として、築地の食文化と伝統を守り、活気とにぎわいのあるまちづくりに向けて、目標も新たに再出発するとのこと

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